おいしいボタニカル・アート
近頃は全国的に厳しい寒波が訪れていますが、その分空気が澄んでいて富士山がいつにもまして美しくみえます。
そして本日は足首に湿布をしているにもかかわらず…娘と孫の付き添いで新宿のSONPO美術館で開催中のおいしいボタニカルアート展に行ってきました。
今回は娘と孫のお供でいくこともあり、がっつり観るつもりはなかったのですが、撮影可のスポットも多く予想以上に楽しめました。
恥ずかしながら、昨日娘から話を聞くまで、ボタニカル・アートについてほとんど知りませんでした。しかしそれはあまりにも身近な素材であるがゆえに、アートという視点と結びついていなかったからです。
ボタニカル・アートとは?
ボタニカル・アートとは…薬草学や植物学といった科学的研究を目的として、草花を正確かつ緻密に描いた「植物画」のこと。17世紀の大航海時代、珍しい植物を追い求めたプラント・ハンターたちの周辺で多くのボタニカル・アートが描かれ、専門の画家も活躍するなど急速に発展しました。 18世紀以降になると科学的な目的に加え、芸術性の高い作品も描かれるようになりました。
プラント・ハンターだなんて、ご存知の方も多いかと思いますが、冨樫義博さんの漫画『HUNTER×HUNTER』のリアル版のような世界です。
このあとはこの展示の代表的な作品の写真(撮影可のみ)交えながら素晴らしいアートの世界を見ていきましょう。
◆リンゴ◆
リンゴは、ヨーロッパでもっとも親しまれている果物のひとつです。ギリシャ神話のトロイア戦争は、争いの女神エリスが「いちばん美しい女神へ」と書いたリンゴを神々のうたげに投げこんだことからはじまりました。また聖書の中で、アダムとイブが神の教えにそむいて食べてしまった木の実がリンゴであると言われています。
◆サクランボ◆
こちらの作品も同じ作家の作品です。今回の展示の題名通り、本当においしそうな果物たちです。しかも、もともとは科学的な目的の為に描かれているので、同じような素材を描いた静物画とは違う植物そのものの自然な美しさを正確に描いていることが分かります。
◆モモ◆
こちらの作品もボタニカル・アートならではの描き方です。モモを切った断面や花をひとつの画面の中でみることが出来ます。
◆イチゴ◆
近頃わたしも、イチゴの花の写真を撮ることもあるので、それぞれの植物たち独特の葉や実のかたちがあり、故意によく見せようと描かれているわけでもないのに美しいのがよく分かります。
◆洋ナシ◆
いまちょうどラ・フランスが出回っている時期ですが、その味の好き嫌いは別としても花だけにとどまらずその実の色艶などどれひとつとってみてもある一定のルールに基づいて決められているのです。人間が何かをみて美しいと感じる現象には、必ずといっていいほど数学が関係していることもまた興味深いです。
植物と数学
ここで、植物と数学の関わりについて少しお話したいと思います。
みなさんは、植物から宇宙まで、自然界の至る所に影響を及ぼす神秘的な数があることをご存知でしょうか?その名はフィボナッチ数列。
13世紀イタリアの天才数学者、フィボナッチが考え出したこの数列は、5、8、13のように直前の2つの数の和が次の数となり、隣り合う数の比は限りなく黄金比に近づいていくことに気づきました。
この数列と自然界との不思議なつながりの典型がヒマワリだと言われています。
ひまわりの種は螺旋状に並んでいますがその配列にはある規則があります。
1、左回りに21列、右周りに34列
2、左回りに34列、右周りに55列
3、左回りに55列、右周りに89列
必ず上記1~3のどれかの組み合わせになっているそうです。
この数字がフィナボッチ数列に含まれており、同じ面積の円の中に1番多くの種が出来るように並んでいるのです。
つまりここから、ヒマワリが子孫をたくさん残すための遺伝子の情報が組み込まれていることがわかります。
ちなみに黄金比とは、わたしたち人間が最も美しいと感じる比率「1:1.6」のことを指し、世の中の芸術や紙幣、企業のロゴデザインにまで幅広く使われている数です。下の画像は、Googleのロゴの例です。
法則を知ってみると
◆プラム◆
数学的視点でこのプラムと実の数を見ていくと面白いようにフィナボッチ数列があてはまっていることに気づきます。この作品の場合、実の数は3で、葉の数は5になります。これはほんの1部分だけ切り取ったものですが、これがこのプラムの木全体に規則的に広がっていくのです。
◆ブドウ◆
このブドウの実つきかたも一定の法則でバランスが保たれていることがわかります。房を形成している実のつき方が1.1.2.3.5.8…というようになっているので、わたしたちはブドウをみて食欲や興味をそそられ、同時に極めて効率的な配列で1つの房に多くの実をつけることに驚かされるのです。
テーブルウエアの世界
ボタニカル・アートは平面的な世界にとどまりません。
1880年代から始まった。 ヴィクトリア朝の時代、産業革命の結果として大量生産による安価な、しかし粗悪な商品があふれていました。
そんな中、古き良き時代の熟練職人による質の高い工芸品に回帰しようというアーツ&クラフツ運動が、イギリスの詩人、思想家、デザイナーであるウィリアム・モリスの主導によりはじまりました。
人々は生活の中に美を求めるようになりました。茶はこの頃には広く普及し、ミントンのような高級窯による自然モチーフの茶器やアーツ・アンド・クラフツ様式のシンプルな茶器をはじめ、多様な茶道具が巻に溢れました。
アフタヌーン・ティーやピクニックが流行すると、自宅の居間や庭、公園や郊外の自然の中でも茶が楽しまれました。
◆ヴィクトリア朝のダイニングテーブルの再現◆
一方ではモリス商会の製品自体は結局高価なものになってしまい、裕福階層にしか使えなかったという批判もあります。しかし、生活と芸術を一致させようとしたモリスの思想は各方面に大きな影響を与え、アールヌーボーなどの様式に発展するきっかけとなりました。
SOMPO美術館コレクション作品の中から
今回の企画展にちなんで、今回は2点のコレクション作品とゴッホのひまわりが展示されていました。先日の国立西洋美術館に続き、貴重な作品を鑑賞し、撮影が許可されていたことはとても素晴らしいことだと思いました。
◆りんごとナプキン◆
◆かぼちゃ◆
◆ひまわり◆
11月に大塚国際美術館で陶板のレプリカをみたばかりなこともありますが、やはり本物の放つオーラは桁違いでした。わたしは今まで何点か本物を観る機会に恵まれてきましたが、ゴッホの作品はそれほど大きなキャンバスに描かれたイメージがありませんでしたが、これはその彼の作品の中ではかなり大きい部類に入ると思います。こんな世界の宝が日本に存在することはとても誇らしいことだと思えます。
そして、前述のフィナボッチ数列のエピソードと合わせ、思いを巡らせてみると、彼が遺した作品の中で最も人々の心にインパクトを与えているのは、ひまわりという花が、人の心を惹きつける黄金比を持つ花そのものだからなのかもしれません。
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