はじめに
先日お伝えしたばかりですが、当初の予定より2週間程度前倒しで、国立西洋美術館で開催中の企画展にいってきました。
入り口のところでカメラを構えているにもかかわらずこのように空気を読めない人がいるのがちょっと残念でしたが、これはこれで影絵のようで面白く撮れていました。
本展は本邦初公開の作品がなんと76点もありまして、主軸となるのは、ピカソの青の時代から晩年まで各時代を代表する作品です。さらに、バウハウス時代を中心とするクレーの絵画34点、マティスの晩年の境地を示す切り絵画、ジャコメッティの円熟期の人間像などが加えられ、創造性あふれる20世紀美術のエッセンスがふんだんに盛り込まれた、今後これほどのボリュームの作品を一度に観る機会はそうそうなさそうな美術ファン必見の展示でした。
また同企画展が行われている本館の常設展も同チケットで鑑賞することが出来るというなんとも嬉しい機会にも恵まれました。
さてピカソといえばいささか分かりづらい作品というイメージで好き嫌いが別れる芸術家なのですが、それはキュビスムの創始者としての印象が先行してしまっているからかもしれません。
しかし、生涯におよそ1万3500点の油絵と素描、10万点の版画、3万4000点の挿絵、300点の彫刻と陶器を制作し、最も多作な美術家であるとギネスブックに記されているぐらい長い人生を通じて常に精力的に製作活動を続けられた希代の芸術家でもありました。
眠る男から
◆眠る男◆
展示エリアに足を踏み入れ、1番最初に目に入ってきたのがこの眠る男でした。こちらは音声ガイドの①で紹介されています。その情報によると、この絵がベルクグリューンがコレクションを始めるきっかけになったのだとか。
私は一貫して根気よく収集し続けることによって、誰にも増して、20世紀全般の生の実感を宿して生きた、人間ピカソの世界の輪郭を捉えようとした
ベルクグリューン回想録より
たしかに、この紙とインクだけでさらっと描かれたようにも見えますが、なんとも魅力的で、いい意味でピカソらしからぬ穏やかで優しいタッチの絵です。
◆セザンヌ夫人の肖像◆
そしてこちらも本邦初公開の作品です。
◆庭師ヴァリエの肖像◆
本作品は、ベルクグリューンが1958年にロンドンのオークションで入手した、彼にとって最初のセザンヌでした。本作はセザンヌの水彩画の傑作のひとつとして知られています。わたしが個人的に一番気に入ったのがこちらの作品でした。
以降しばらくは音声ガイドに沿って鑑賞したピカソの作品が続きます。
分かる範囲で本邦初公開の作品についてお伝えしていきます。
◆ジャウメ・サバルテスの肖像◆
◆座るアルルカン◆
本作も本邦初公開。青の時代からバラ色の時代に変化を遂げた頃の作品です。
◆裸婦《アヴィニョンの娘たち》のための習作◆
こちらは、ニューヨーク近代美術館に展示されているアヴィニョンの娘たちです。
◆丘の上の集落◆
ピカソ、キュビスムの幾何学的表現が一気に深化した時期の作品です。
◆帽子の男◆
◆ヴァイオリン◆
◆マ・ジョリ◆
四角いテーブルの中央にギターが置かれ、その周囲にサイコロ、グラス、トランプのカード、パイプ、そしてピカソが好んだイギリス産のビール「バス」の瓶。ギターのボディはハートの形に変えられ、その上には、「マ・ジョリ(僕の可愛い娘)」という歌の題名を記した楽譜が掲げられています。ユーモラスな形態と豊かな色彩によって、恋人への愛情と幸福感を表現した作品です。
わたしもつられて自然とほっこりとした気持ちになりました。
◆アプサントのグラス◆
アプサントはアルコール度数の高い薬草系のリキュールであり、安価なためにフランス近代の芸術家たちに好まれたそう。アプサント用のグラスは、中程にくびれのある独特の形をしています。
本作品はアプサントのグラスをほぼ実物大に再現した彫刻であり、1914年にピカソが蝋で作った塑像をもとに作られたブロンズ像に、さらにピカソの手で彩色が施されました。
◆グラス、花束、ギター、瓶のある静物◆
◆窓辺の静物、サン=ラファエル◆
本作品は、サン=ラファエルの窓辺の静物を主題とする連作の中でもっとも美しく完成度の高い1点として知られています。ベルクグリューン・コレクションを代表する珠玉の作品のひとつで、こちらも本邦初公開です。
◆座って足を拭く裸婦◆
このパステル画も、ベルクグリューン美術館が誇る優れたピカソ作品のひとつで、ルノワールの作品の影響を受けて描かれたと言われています。しかし、ルノワール作品と比べて手足が肥大化してデフォルメされていることから、ピカソの関心が物語性よりも、足を組むなどの身体表現に向けられていることが分かります。
◆踊るシノレス◆
個人的にですが、わたしはこちらの作品にとても興味を惹かれました。
題名にあるシノレスは、古代ではサテュロスと同じく豊穣と酒の神バッコスの信者であり、守役でもありました。また本作は、ピカソがバレエ・リュスのイギリス公演に同行した際に舞台で踊るダンサーたちに古代の表象を重ねて表現したと言われています。
◆ミノタウロマキア◆
スペインの伝統である闘牛と、古代ギリシャ神話に登場する牛頭人身の怪物ミノタウロスは1930年代初頭のピカソ作品を特徴づける2大テーマとなっていました。
本作はこの2大テーマが時に交錯しながら同時並行的に展開され、見事に融合した集大成的作品であり、その後のゲルニカを予見させるような重厚かつ深遠な版画作品です。
◆サーカスの馬◆
◆雄鷄◆
予告
今回は展示の前半部分を駆け足でお伝えしました。
明日は、いよいよ今回の展示の目玉ともいえる、緑色のマニキュアをつけたドラ・マールなどの作品が登場します。乞うご期待!? なんちゃって。
余談ですが、この企画展があまりにも素晴らしかったので、久しぶりに図録を購入してしまいました。長谷川博己さんのナレーションも素晴らしく機会がありましたら是非皆さんも観覧されることをお勧めします。
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